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最高裁判所第三小法廷 昭和35年(あ)701号 判決 1961年7月25日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人秦重徳の上告趣意第一について。

所論は、要するに農林漁業金融公庫法一七条及び一九条二項の各規定は、同公庫の役職員又は同公庫の委託業務に従事する金融機関の役職員を刑事責任を問う場合に限り公務員とみなすものであって、不合理であり、憲法一四条一項に違反し無効であるというにある。

しかしながら、一般法規(勿論刑罰法規も含まれる。)において、国民の各人に存する経済的、社会的その他種々の事実的差異から生ずる不均等を認めたとしても、その不均等が一般社会観念上合理的な根拠のあるものである場合には憲法一四条一項の平等の原則に反するものでないことは当裁判所大法廷判例の趣旨とするところである。(昭和二五年(あ)第三二六九号、同二八年六月二四日大法廷判決、集七巻六号一三六六頁以下、昭和二三年(れ)第七〇号、同年五月二六日大法廷判決、集二巻五号五一七頁以下等参照)。而して農林漁業金融公庫法の規定によれば、同公庫は農林漁業者に対し農林漁業の生産力の維持増進に必要な長期且つ低利の資金で農林中央金庫その他一般の金融機関が融通することを困難とするものを融通することその他の事項を目的とする公法上の法人であり(第一条、第二条)、その資金の全額を政府において出資するものであり(第四条)、役員のうち総裁及び監事は内閣の承認を得て主務大臣(農林大臣、大蔵大臣)が任命し(第一〇条、第三四条)、予算、決算については特に法律の定めがあり(第二二条)、業務に関し主務大臣の監督を受ける(第二九条)等、その性格上、行政機関に準ずるものといえるのであって、所論役職員の職務の威信と公正を確保すべき必要も一般の公務員と比してさしたる逕庭があるものとは考えられない。されば、所論の各規定が所論役職員を「刑法その他の罰則の適用につき法令により公務に従事する職員とみなす」と定め、刑法一九七条(従って、贈賄者については、同法一九八条)の適用を認め、かような職務上の地位にない国民との間に差別を設けているとしても、それは前叙の如き合理的な根拠に基づくものである以上、上記大法廷判例の趣旨にてらして憲法一四条一項に違反するものといえない。論旨は、当裁判所大法廷判例の趣旨に反する主張であって、採用することができない。

同第二について。

所論は、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由にあたらない。(所論(一)は、一審判決の事実摘示中、「第二、被告人菅宮文作は一、被告人本間伊勢蔵と共謀の上云々」とあるのは、相被告人菅宮の犯罪事実のみを表示したものであって、本件被告人の犯罪事実まで表示したものとは認められない、然るに、一審判決は、本件被告人の犯罪事実に対する法令の適用として、「判示所為中判示第二の一の所為は刑法第百九十八条、罰金等臨時措置法第二条、第三条、刑法第六十条云々」と表示しているのであって、判決の理由にくいちがいがある場合に該当すると主張するけれども、右事実摘示はその表現の形式において妥当でない点があるとしても、本件被告人の当該犯罪事実の表示として欠くるものがあるとまではいいえない。又、同(二)は、一審判決は、被告人に対する法令の適用として、「判示第三の一の所為中、(中略)同大薮数馬、佐藤顕、溝淵幸男に贈賄した点は刑法第百九十八条(農林漁業金融公庫法第十七条)(中略)判示第三の二及び三の所為はいずれも刑法第百九十八条(農林漁業金融公庫法第十七条)(中略)に該当し、」と表示しているが、右大薮数馬、佐藤顕、溝淵幸男の三名は、判示によれば農林漁業金融公庫の職員ではなく、農林中央金庫山形支所の職員であるから、農林漁業金融公庫法一七条の適用を受けるべきではない。されば刑法の収賄罪の規定の適用を受けるとしても、農林中央金庫の職員が同金庫が農林漁業金融公庫からその業務の一部を受託したことに基づき当該委託業務に従事する者として農林漁業金融公庫法一九条二項の適用を受ける結果そうなるべきであるのに、右規定を摘示しなかったことは、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令違反であるという。しかし所論のように同法一九条二項を適用すべき場合に誤まって同法一七条を適用したとしても、結局において刑法一九八条の適用を受けることについては何らの差異がないのであるから、かかる瑕疵は判決に影響がないものというべきである。)

同第三について。

所論一は事実誤認の主張、同二、三はいずれも事実誤認及びこれを前提とする単なる法令違反の主張であって、すべて上告適法の理由とならない。

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋潔 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一)

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